ジュリアーニ氏は、かつて犯罪都市と言われたニューヨーク市の治安を安全な街と言われるまでに回復させる過程で得た洞察を、「リーダーシップとは何か」、「どのようにして組織を動かすか」を主題にした書物に仕上げる作業途中、9月11日の「同時多発テロ」に遭遇された。
草稿に認められていた考え方、例えば「衆知を集めよ」、「信念を持て」、「手本を示せ」、「順序立てて処理せよ」等は、まさに究極の試練にさらされ実践される中で、筆者にとって確信になるまでに鍛えられたのである(3月末の同氏の講演を聞かれた方にはよくお解かりになると思う)。
それにしても、この人の「現場を自分の目で見て対応を判断する」という現場主義は徹底している。その日のうちに現場に6度赴き、2000度の高熱に耐え切れずタワーから飛び降りる多くの被災者を目撃するという悪夢のような体験をしながら、また、自らもタワー崩落に巻き込まれる危険に晒されながら、①市民とのコミュニケーションを絶やさず市民を安心させる、②被災者対策、③次はどこが攻撃されるか、を念頭に、できるだけ現場に近いところに指令本部を確保し、必要な指示を与えていったのである。このような現場主義がなければトップダウンの決定などありえないのだ。
就任当初「どのようにして組織を動かすか」に腐心した市長が、毎朝8時から「部長会議」を開くことにし、各部長をはじめとする幹部職員と問題意識を共有できるようになっていたことが第2章で述べられているが、このような組織作りも、未曾有の危機を乗り切るのに大いに貢献したことを付け加えておかねばなるまい。