2.「うさぎのミミリー」(庄野潤三著、新潮社)

老作家夫婦の日常が、娘さん息子さんとの交流を中心に淡々と語られる。著者は、私の父とほぼ同世代の人なので、両者をつい較べてしまう。父は長い間の議員生活を終え、庄野さんと同じ様にゆったりとした生活を楽しめるはずであったが、母が倒れてほぼ寝たきりになってしまったため、介護に多くの時間を割かざるをえなくなってしまった。不平不満を貯めこんでいるはずなのに表には決して出さない。 一方、何事に対してもよく「有難う」と言うようになった。その「有難う」という言葉が、この作品中でしばしば述べられる「ありがとう」という言葉と私の心の中で響きあう。 著者のそれは悠々たる人生には違いないが、酒と釣りを楽しんだ井伏鱒二さんの晩年とも趣を異にする。小津安二郎監督の名作「東京物語」の世界に近いか。内容的には「インド綿の服」(講談社)の後日譚ともいえるので両方お読みいただくことをお奨めする。