1.「人間科学」(養老孟司著、筑摩書房)

政治のモトは人間だから、政治を志す者にとって人間理解(human science)は不可欠である。人間理解(human science)は政治学(political science)に先行すべきなのである。哲学に足を踏み入れた医学者として、著者は、本書で「人間とは何か」について、様々な角度から語っているが、豊かな経験に裏打ちされた深い洞察は、政治理解について(例えば、「共同体への加入資格」、「性差を論じる意味」)、或いは教育について、言語について、また宗教について(「シンボルと共通理解」の章)鋭い逆照射となって「情報化しすぎている」私たちの脳をいわばリセットしようとする。著者も述べている通り、「いまでも日本の公教育は宗教と哲学を教えない」。だから全体を見渡せる専門家が育たない。政治を志す人、また、専門家を以って任じている人に繰り返し読んでいただきたい一冊である。