某月某日
家の酔漢が吾輩に繰り返しのたまう科白がある。曰く、君たちネコ族も直立二足歩行への偉大な一歩を踏み出さないか。手と大脳が大いに進化し、道具と言語を持つことができる。そうなれば人間と対等だ。ネコ族の大統領なんてのはどうだい。
惰眠から醒めるともなくお節介な話をよく聞いたのが主人の机の上である。それが何時の頃からか書物と書類が堆く積まれるようになり吾輩の足の踏み場も失せた。思えば主人はその頃から「html」がどうの「タグ」がこうのと独りごつようになった。
デジカメとやらで矢鱈追いかけまわされてからややあって、久しぶりに吾輩が嘗て惰眠を貪ることを常とした場が原状回復されているのを発見した。主人は何やら画面に向って釘付けになっている。吾輩が泣こうが、肩を叩こうが一向に気付かぬ様子である。後で、それがホームページなるものであることを知った。
吾輩は他人のことにはとんと関心を持たぬ。持ってもらおうとも思わぬ。しかし、主人は職業柄そうもゆかぬようである。手と大脳が大いに進化したところで、行き着く先がこういう厄介なら直立二足歩行も考えものである。